世界衝突

きみが殺したいという人間はけっして某々氏ではなくて、それはきっと仮装にすぎないのだ。われわれがだれかを憎むとすれば、そういう人間の形の中で、われわれ自身の中に宿っているものを憎んでいるのだ。我々自身の中にないものは、我々を興奮させはしない。

表現の達人・説得の達人 (PHP文庫) ★★★ … 「情」「報」「ヒューマン・ファクター」。竹村のおっちゃまの本より面白く、良い本じゃった。が、はしがきの、迸る「情」熱を伝えるような「報」はなかったな。いや、なくて全く問題ないのだ。なぜなら、「ヒューマン・ファクター」たり得るものは≪エモーション≫ではなく、データでもない――それは≪感情≫をアジテートさせざるを得ない「パラダイム」であり「情」であるからだ。

そのパラダイム同士の衝突が如何にエモーショナルであるかを知ることができる事件がある。id:fromdusktildawnさんが霞ヶ関官僚の「情」をアジテートして「釣った」やつ*1だ。彼は「正論よりも感情論が有効だ」というようなこと言っていたが、どうやら僕はその「情」を≪感情≫と誤読していたようだ。

感情論……それは非論理的≪エモーション≫の代名詞。だけど、本当に非論理なだけ?いや、そもそも理の通らない「情」に、どうして我々の≪エモーション≫は突き動かされるのだろうか?今まで知らなかった何かを突きつけられたから?自分の≪感情≫を代弁してくれたから?どちらもあり得る気がする。そのどちらもあり得るが故に、そのどちらにもあるはずの共通点――「パラダイム」だ。

論理以上の感情論。――時に論理だった感情論、時に論理を無視した感情論、時に全てが無効な感情論。どれもこれも「世界観」なしに語ることのできない「情」。全てが情報化され、データベース化され、有機体は最も効率的な無機体に再配列されている。だけど効率だけじゃ物足りない。「報」の限界効用が限りなく零に近づいた今、我々は「生の情報」、「生きた有機体」を求める。その「人」しか語ることができない血の通った物語―「ヒューマン・ファクター」―を求める。魅力的な物語―何かをアジテートくる物語―は世界観が攻撃的だ。必ず衝突してくる、侵食してくる――感染拡大。それゆえに、物語としては凡作でも、埋めこまれたパラダイムが故に忘れられず、心に刻み込まれてしまった作品は多々ある。また、その逆も然り。

ハリーポッター』は面白い物語であり、間違いなく傑作だ。だけど、僕の≪感情≫をアジテートすることができても、僕の「情」をアジテートすることはできなかった。それだけの、生の世界観を提示することはできなかった。結局は「データベース」の羅列・再配列……「報」の集合体にすぎない物語であった。

上野瞭が言うように、物語ってもんは前者のアジテーションあってこそのものなんだろう。後者のアジテーションは哲学がもっとも効率がいいはず。そうしてみると、後者の極には『デカルトの密室』がくるんだろうな。

こんな感じで思考を進めると、上手い物語は「引き上手」ってことになる。何が「上手」かと言えば、その先に「何が起こる」ではなく、「どんな世界が待っている」のかとハラハラ・ドキドキせずにはいられない見せ上手。焦らされたグランドラインの先にある「新世界」に僕たち海賊は夢を馳せているのかな。*2

ちなみ、最近のやや凡作系物語でコレが上手いのは『七姫物語』。純粋なバックグラウンドの<世界>としての「世界観」もハリポタより生きているし、淡く可愛いし、心地良い。七姫が魅せてくれる・くれるであろう「パラダイム」も上手に焦らしてくれる、期待させてくれる。女主人公の別格作品としては、『十二国記』『ガラスの仮面』「守り人シリーズ」あたりだろうなぁ。ケチのつけようがないもん。(と言っても、十二国とガラスは破綻寸前臭もするんだがwww)そう言った意味で、キャラクター小説ってのも、キャラに「世界観」が埋めこまれていれば文学たりえると思うし、大塚ちゃんも言ってたよん♪だけど、『ゼロの使い魔』みたいのがトレンドになっちゃうようじゃ、「メガネがないと明日も見えない@さっちゃん」だよなぁ。これじゃ大塚英志も嫌になっちゃうわな。ってわけで、『サイコ』のサイコ・キャラ漫画としての「世界観」にも期待してるぞ。解離漫画の最先端を突っ走れ!できれば、10年以内に完結させてくれwww

ま、20:80の法則が8割だったが、残りの20で見事にアジテートされたぜ、小川明!これもアキラの呪いか!?この間も、浴槽にもたれかかってタレパンダやってたら、肘に全体重ザケルガーしてしまい一肘電剣でビビットビットだったんよ...orz あやうく、見事に完全密室殺人《浅田浴槽事件》を成立させちまうとこだったぜ! 策士に狙撃さられ、オカマに削られ、ブルーサマーズに操られ、KGB御用達の密室殺人術……濡衣さんでもお先真っ暗闇!さしもの油漬の泥鰌も、そろそろ命数が尽きるってもんですよ、黒鋼さん……。ってか、そろそろアソコは「殺し名」に認定した方が良いぞ。おおっぴらにやり過ぎ。

*1:「もし政府が月収40万円の家庭だったら」まとめ - ハリ・セルダンになりたくて

*2:だから、『シャーマンキング』とかが好きなんだろうなぁ、僕って。いつか、世界の果ての先にある奇蹟とか永遠とかいうものを見せてくれますよね、武井センセ?